MUSEUM TALK

著名人からの視点で語る、
「金融」への思いと明日への刺激。

Museum Talk 006 「馬術を知るほど、生涯スポーツの価値と可能性が見えてきた」髙田茉莉亜×杉山恒太郎

馬術は誰もが知っているスポーツです。
でも、その馬術のルールやそのトレーニング方法、
選手と馬との関係となるとどうでしょうか?
唯一の生き物と共にあるオリンピック競技であり、
生涯スポーツとして大きな可能性をもつ馬術
その価値を知るにつけ、金融と共に出来ることがあるように思えてきます。

今回のゲストは、馬術競技のトップアスリートとして活動中の
髙田茉莉亜さん。
そのチャーミングで凛とした容姿の内にある馬術への愛と、
その競技を育てようという意欲に、杉山恒太郎は大感動の対談です。

自分をマネージメントするために
ぜひ、ミュージアムに通ってほしい(杉山)

杉山 まずこの『金融/知のランドスケープ』なんだけど、どんな印象でしたか。

髙田 すごくカラフルで、きれいで、おしゃれで、スタイリッシュで、キッズ用のコンテンツもありましたし……。
どんな世代の方でも、分かりやすくすごく楽しめるような内容になっていると感じました。

杉山 髙田さんのような若い人にスタイリッシュって言われるとうれしいです。

髙田 ほんとにかわいくて、色も。触ってみたくなっちゃう。

杉山 そうですか。それはうれしいです。
対談の前にスタッフに聴いたんだけど、大学卒業後は一般企業に就職をしないで馬術競技を中心の生活をされるとか。ものすごく素敵だと思いますが、競技を中心においていると、どうしてもお金のことも考えないといけませんよね。自分で自分のマネージメントもしなきゃいけないことが増えてくる。そんなにいきなり勉強にはならないかもしれないけど、ぜひ、あそこに通って勉強してください(笑)。

ヨーロッパでは馬術はメジャースポーツ
スタジアムで競技をすることもある(髙田)

杉山 ところで、馬術ってすごくお金のかかるスポーツでしょう? 預託料っていうのかな? 

髙田 はい、馬を預託する。

杉山 馬を厩舎に預けなきゃならないから、維持費とか、かかりますからね。結構、車のレースなんかと似ていますよね。

髙田 そうですね。餌代もかかりますし。

杉山 相手、生き物だものね。

髙田 そうです、はい。あとトレーニング費もかかってきます。

杉山 トレーニング費っていうのは何? あなたがいないときに馬のコンディションを整えること?

髙田 そうです。整えておいてもらっているための費用とか、調教費、大会のエントリー費、競技場まで馬を運ぶ費用もかかってきます。

杉山 そうしてお金がかかるから、日本では競技者としての馬術選手が育ちにくいんだね。オリンピックとかだと面白いから馬術の中継を見たりするけど、特別な人たちが、特別な環境でやっているように感じる。日本では、残念ながら身近なスポーツとして馬術が根付いていないからね。でも、以前にヨーロッパにいたときに、馬術の大会に、ほんとにサッカーとか、日本とかアメリカでいえば野球のように、人が大勢集まってみんなでお祭りのようにして競技を楽しんでいるのを見たときはびっくりしました。

髙田 ヨーロッパでの馬術は本当にメジャースポーツです。大会はサッカースタジアムに週末だけ砂を入れ、馬場に組み換えて大会を開催されたりしますし、観客がたくさん入ってお店もたくさん出て、ほんとにお祭りのように試合が行われますね。先日のリオ 2016オリンピックでも、開会式のときのオランダの旗手は馬術の選手だったんですよ。

杉山 そのぐらい、みんなに注目されたり、愛されたり、リスペクトされたりしているってことだね。だったら馬術のプロになれる。

髙田 そうなんです。日本では馬術競技だけで生活されている方が、ほんとに少なくて。少しでもヨーロッパのように日本もなったらいいなと思っています。

杉山 髙田さんがそのフロンティアのひとりになっていくわけだ。大変だけど、素晴らしいことです。だからこそ、お金のことを知っておかなければいけないことも事実。まだ大学生でもある髙田さんですが、いままでにお金のことを意識して考えたことはありますか。

髙田 お金の価値とか全然考えなかったのですが、大学生になって初めてアルバイトをしたんですよ。アパレル系で1日5時間ぐらい働いて5000円程度でした。このときお金を稼ぐことの大変さを実感しました。かなり遅いと思いますが、お金の価値みたいなものをやっと理解したんです。そのころはまだ、両親に馬を買ってもらったり、預託料を出してもらっていましたから。好きなことをやらせてもらっている、有り難さに初めて気付いて「ああ、こんなに大変なことをしてもらっているんだ」と感謝しました。

馬場馬術のジャッジって
演技の何を見ているんでしょう(杉山)

杉山 馬術競技って、いくつか種類がありますね。髙田さんがやる馬術は?

髙田 大きく分けると3つあります。1つ目は障害馬術といって、名前の通り障害物を飛び越えながらスピードを競う競技。2つ目は私がやっている馬場馬術。馬術のフィギュアスケートと呼ばれていて、審判の方が演技をジャッジして、その平均点で競う競技です。20メートル×60メートルに仕切られた馬場の中で、決められたポイントで技をおこない10点満点の点数を競います。

杉山 まさにフィギュアスケートだね。

髙田 フィギュアと同じように規定演技と自由演技があって、自由演技は音楽に合わせておこない、芸術点や技術点がつきます。3つ目が総合馬術というもので、3日間でおこなうのですが、初日に馬場馬術をして、2日目に障害のある野外のクロスカントリーコースを駆け抜けてタイムを競い、3日目に障害馬術をして‥。その3日間とも同じ馬に騎乗します。この3種目がオリンピックでの馬術競技です。

杉山 それもそれぞれ特徴がありますね、髙田さんのやっている馬場馬術の演技のジャッジはどのような点を見るんですか?

髙田 三種の歩法があって、まず、常歩(なみあし)という人間が歩いているような感じのもの。それと速歩(はやあし)が、たったっ、たったった、と小走りぐらいの感じ。駈歩(かけあし)は、いわゆるキャンター。スピードが早くて一番ダイナミックな動きをします。その三種の歩法に、規定だと「じゃあ、速歩で何々をしてください」「駈歩で何々をしてください」と技との組み合わせが決まっていて、それに点数が付けられていくんです。

杉山 自由演技って何をやるんですか。

髙田 自由演技も5分間か6分間ぐらいの決められた時間の中で「これと、これと、これだけは絶対してくださいね」と決まっていますが、馬場のどこでしても構いません。で、自分で選んだ音楽に合わせて規定と同じ技をします。

杉山 技は変わらないんだ。

髙田 そうです。ただその曲に合わせて自由にコースを決められます。規定演技では決められた場所で技をやりますが、自由演技では自分が決めていいんです。

杉山 じゃあ曲も自分で決めるの?

髙田 そうです。フィギュアとの違いは、フィギュアは1曲で演技することも
可能ですが、馬の場合は走り方が違うので、その走り方ごとにリズムが合う曲をチョイスすることです。

杉山 リズムの違いね。

髙田 まあ、最低3曲、常歩、速歩、駈歩に合わせて最低3曲使って、あとは、その技ごとに曲を変えてみるなど工夫をこらしながら。

杉山 馬は頭もいいし、耳がいいもんね。

髙田 そうです。

杉山 だから、すぐ覚える?

髙田 でも馬は覚えてはくれないんです、技は。
「あ、この曲のときに、ここでこれをするんだ」までは覚えてくれないです。だから、そこは人間が完全にコントロールしています。

杉山 手と脚で。

髙田 そうです。手と脚。馬の口につける馬銜(はみ)から手綱が伸びているんです。それを手で握って、あとは鞍についている鐙(あぶみ)に足を掛け、ちょっと締めたりとか蹴ったりとか、体重やバランスを移動したり、手を引いたりしてコントロールします。

杉山 馬術はすごく優雅に見えるけど、そこにはかなり緻密な技術があってコントロールされてるというわけだね。

プロとして馬術をプレゼンテーションしたい!
その魅力と価値を知ってほしい(髙田)

杉山 お話を伺っていて、あらためて思うんだけど、日本では、馬術の認知度はあるけれども、実はその面白さを誰も深く知らない。そういう意味ではマイナーなスポーツではあると。

髙田 そうです。

杉山 だから髙田さんが、ある意味フロンティアとして馬術に専念し、やっていこうとしているわけだけれども、この対談の最初に話したように、お金がかかるスポーツだし、選手が自身でマネージメントしていかなきゃいけないスポーツでもある。
テニス選手なら、胸やキャップに企業のロゴがあったり、F1のレーサーだったら、カラダ中、マシン中にたくさんスポンサーのロゴがある。馬術の場合はどうなんだろう? 尻尾に何かつけるわけにはいかないだろうから‥。

髙田 私たち馬場馬術選手の場合は、ちょっと後ろが長い燕尾服を着てシルクハットをかぶって試合に出ますが、その燕尾服の胸元とかにスポンサーロゴをつけることは一応オーケーになっています。あんまり大きいものはダメですが‥、また鞍の下にゼッケンという布をつけるんですが、そこにもロゴを入れることがあります。でもヨーロッパのトップ選手は、身につけている物は全部スポンサーから提供されているものです。馬具メーカーからファッションの一流ブランドになったメーカーが幾つもあります。

杉山 エルメスを筆頭にね。だから、これから髙田さんは、そういう道に行かなきゃいけないんだよね。

髙田 そうですね。

杉山 アスリートがスポンサーを見つけたりするときは、「私にはこういう価値があるから」とプレゼンテーションをしたりするわけですが、そういうことに対してはどうですか?

髙田 そういうお話があれば、どんどんクライアントに伺って、訪問してやっていきたいなと思っているんですけど‥。
馬術を十何年間やって、馬術の魅力をたくさん私は知ってきているし、いろんな人にそれを知ってもらいたい。馬術の魅力については自信を持って言えるので、そういうプレゼンテーションはぜひさせていただきたいなと思います。

杉山 それを、ぜひ何か絵を貼ったり言葉を付けたりして、伝えてほしいな。

髙田 そうですね。

杉山 やっぱり東京2020オリンピックがいまの目標ですか?

髙田 はい、東京にはもちろん出たいのですが、それは中期的な目標です。長期目標としては、大先輩の法華津さん(数々のオリンピックに出場した75歳現役馬術選手)のように、私は「生涯現役」を挙げているんですよ。

杉山 馬術ならできますよね。

髙田 馬術は本当に息が長いスポーツなので、一生涯、カラダが元気なうちは、ずっと続けていけると。その過程の中でオリンピックや世界選手権、アジア大会などに出場していきたいなと思っているんです。
今、高齢社会になってきていますよね。馬術や乗馬って、高齢者の方でも有酸素運動を楽しむことができます。お金の余裕が少しある高齢者の方が、馬を買ってお孫さんにも楽しんでもらうなど世代をまたいで楽しむようなことができるスポーツですから。
ホースセラピーとかもあるのはご存じですか。

杉山 ああ。ホースセラピーってあり得るよね、馬なら。

髙田 はい。本当に身体的にも精神的にも馬が癒やし効果、セラピー効果があるということが証明されているそうです。高齢者の方や障害のある方には既に実績もあるようです。
選手として活動しながら、子どもたちへの指導や馬術の普及活動もできたらいいと思っています。

日本でもスポーツ市場の活性化が
馬術を文化に育ててくれるといいですね(杉山)

杉山 今日の対談を振り返って、この対談の場所も銀行の中なんだけども、銀行って髙田さんにとってどういうふうな存在なの?

髙田 そうですね。結構、堅いイメージは私も少しはありますね、やっぱりまだ。

杉山 今は? 銀行。

髙田 実は父が銀行関係なんです。ですから昔から、少し株のこととか興味はあったんです。でも実際、父に教えてもらうことっていうのは、あんまりなくて、今回こういうお話をいただいて、マンガ『インベスターZ』とか読んで、あ、株ってこういう……。

杉山 『インベスターZ』面白かったでしょう。

髙田 面白いです。はい。インベスターZを見ているとすごく簡単に思えてしまいますが、実際に自分がやったら難しいと思います。でも、あのマンガで今、中学生とか高校生でも株や為替を考えなくてはいけないんだと思いました。ちょっとやってみたいな、なんて興味も湧いたんですけど。
今、東京2020オリンピックに向けて、オリンピックムーブメントっていうのが日本で起こっていますが、そのために例えば、銀行が主体となって、スポーツファンドのようなものを作って、みんなが投資して、スポーツ施設やスポーツ商業施設をオリンピックが終わった後でもいい方向に活用することで利益を還元するみたいな、そういう投資の形ができたらいいのかな、なんて思ったりもしました。

杉山 立派だね。

髙田 いえいえ。

杉山 でも、そこが重要だと思います。たとえばロンドン2012オリンピックは、それまでのオリンピックは終わるとだいたいその国は不況になるという問題をよく考えてやった。ロンドンの場合、景気は落ちることなくむしろ上がった。とくにスポーツという文化の市場への投資を呼び込んだんです。もともとロンドンは金融シティだからお金が集まるんだけど、その仕組みづくりの上手さだね。東京も考えているようだけど、頑張ってほしいものです。

髙田さんのようなオーラがある人が牽引して、日本に於いても、ヨーロッパのように馬術が文化になっていってほしいね。今日は有り難うございました。本当に面白い話ができました。

杉山 恒太郎(すぎやま こうたろう)

株式会社ライトパブリシティ 代表取締役執行役員社長。大阪芸術大学 客員教授。
1999年より電通においてデジタル領域のリーダーをつとめ、インタラクティブ広告の確立に寄与。トラディショナル広告とインタラクティブ広告の両方を熟知した、数少ないエグゼクティブクリエーティブディレクター。

髙田 茉莉亜(たかだ まりあ)

1994年東京生まれ。2013年慶應義塾大学入学、アイリッシュアラン乗馬学校所属。
慶應義塾幼稚舎3年生より乗馬を始め、6年生から本格的な馬場馬術のレッスンを受ける。全日本ジュニア馬場馬術大会、国民体育大会、全日本馬場馬術大会などで優勝・入賞。2013年より日本馬術連盟強化対象選手(プログレスチームメンバー)、2014~2016年JOCオリンピック有望選手、2015年オリンピック強化指定選手、JOCネクストシンボルアスリート選出。讀賣新聞2016年日本スポーツ賞優秀選手に選出。